シリーズ・客船で世界を旅してみた~その1~

 街を歩くと「地球一周船の旅」のポスターを良く見かけます。国際交流を目的に設立された国際NGO・ピースボートが主催する船旅の宣伝紙です。今回は、このピースボートを利用しました。実は91歳になる母が74歳の時、ピースボートで地球を一周し、この時の船旅が人生で一番楽しかったと私に何度も話してくれました。そこでサラリーマンを完全リタイヤしたら長年苦労をかけた妻とピースボートに乗ろうと決めていました。その夢がやっと実現したのです。
4月12日、横浜の大さん橋からピースボートのオーシャンドリーム号に妻と2人で乗りこみました。約3ヶ月半の旅の始まりです。
 オーシャンドリーム号は、1981年にデンマークで建造されました。総トン数約3万5千トン、全長205m、全幅26.5mの11階建てで、多数のホールやラウンジを備え、プールやジャグジーのあるデッキスペースでゆったり過ごせる本格外航客船という触れ込みです。一般的に船の寿命は、貨物船が15年から30年と言われるのに対して、客船は40年から50年と長寿です。客船は値段が高いため、できるだけ長く使う工夫をしています。積極的なメンテナンスと腐食の防止、荒波を避けて航路を計画するといった具合です。オーシャンドリーム号は、寿命に近いといえば近い36歳、もはや豪華客船ではありません。航行しながら常にメンテナンスをしており、私たち夫婦の7階の客室では修理の音が響いたり、塗料の匂いが充満したりすることがありました。最初の頃、あまりの騒音に昼間だけ空いている部屋に避難させてもらったほどです。カリブ海や地中海をクルーズする客船が年々大型化し、船内施設もますます豪華になる中で、オーシャンドリーム号はどうしても見劣りしますが、服装がほぼ自由で、カジュアル感覚で地球一周の船旅を楽しむには最適な船と評価する旅のベテランもいます。
 この船を所有し運行しているのはアメリカの会社で、税金の安いパナマ船籍です。今回の乗組員は、船長がウクライナ出身、機関長はブルガリア、副船長はパナマ、医師はコスタリカと日本、総料理長は日本と多国籍、30カ国380人で構成されていました。乗客は、神戸や途中の寄港地から加わった人達もふくめ、91歳から2歳までの男女約1000人で、そのうち日本人が8割、あとは中国、台湾、韓国、シンガポール、マレーシアからの参加者でした。船内にいながらにして自然に国際交流できるというわけです。
 ピースボートの特徴の一つが何度も参加しているいわゆるリピーターの多さです。今回も4人に1人がリピーターで、中には10回以上参加している人も結構いて、4回くらい乗船しているのが平均のようでした。さて、今回の地球一周は、いわゆる北回りで、最初の寄港地シンガポールからインド洋、地中海、バルト海、大西洋、カリブ海、そして再び太平洋に入り、最後の寄港地がハワイいうコースでした。航行距離は、57,825kmで23カ国、24の寄港地を訪問しました。
船ならではの旅の醍醐味でスエズ、パナマの両運河とセーヌ川の通航、ノルウェーのフィヨルド遊覧、北極圏通過を体験できました。真冬のような北極圏から一気に真夏のようなバミューダ諸島へと一つの航海で信じられないほどの気候の変化を感じる旅でもありました。
 105日間の長旅の3分の2以上が船内生活ということで、多彩な船内企画が用意されていました。学べるものから楽しめるものまで盛りだくさんで、イベントに参加したり、デッキでゆったりとしたり、船内での過ごし方は人それぞれです。私の場合は朝5時半に起床、6時から太極拳とラジオ体操でスタート、続いてヨガ教室で心身のバランスを整えてから朝食というのが朝の基本パターンでした。昼間は、デッキに出て海をぼんやり眺めたり、寄港地の歴史や文化、社会問題などをわかりやすく解説する講座に出席したりして脳を活性化させ、夜は気の合う仲間と時々酒を酌み交わし船内情報を交換しました。
 ほとんど毎日、テレビを見ることもパソコンでインターネットをすることなく、夜10時過ぎには就寝という極めて健康的な毎日を送ることになりました。船旅を終えて分かったことは、テレビも新聞もインターネットも、なければないで何の支障もないということでした。マスコミ出身の私自身の自己否定にもつながりかねないなと思ったものです。
次回からは、最初の寄港地シンガポールを手始めに地球一周の船旅を振り返ることにします。
山形 良樹(元NHK記者)

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