「ポスト・トゥルース」を野放しにするな

 新聞やテレビの調査報道など真実の追及が大きく評価されてきたアメリカで「うそ」が世論を形成し、政治を動かしている。信じられない事態だが、その元凶は米大統領選に当選したトランプ氏の言動にある。
昨年11月、世界最大の英語辞典を発行するイギリスのオックスフォード大学出版局もこの事態をとらえて2016年を象徴する言葉に「ポスト・トゥルース」を選んだと発表した。「真実が終わった後」…。事実や真実ではなく、感情や個人的な信条で世論が作られるという意味である。
大統領選のさなか、さまざまなフェイク(偽)ニュースが作られては、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のツイッターやファイスブックで瞬時に拡散された。
「イラク侵攻には当初から反対していた」「オバマ大統領がIS(過激派組織イスラム国)の創設者だ」「クリントンがISに武器を売却した」「同時多発テロのとき、世界貿易センタービルが崩壊してイスラム教徒が歓声を上げていた」などトランプ氏自身のうその発言も多かった。政治家の発言の真偽を検証する米メディアのポリティファクトによると、トランプ発言の7割が「ほぼ間違い」から「真っ赤なウソ」に相当するというから驚いてしまう。
フェイクニュースは落ち着いてちょっと考えれば「おかしい」と分かりそうなはずなのに、信じた28歳の男がピザ店で発砲事件を起こして逮捕される事件まで起きた。なぜみな、コロリとだまされてしまうのか。
メディア・コミュニケーションの研究に携わる専門家の多くが「類は友を呼ぶといわれるように人は自分の考えと同じ意見を好む。ネット上ほどそれが顕著に表れる」と分析する。客観的事実よりも、自分の立場を擁護してくれる情報に強く引き寄せられる。その結果、トランプ氏のような米国第一主義や過度の保守主義、自国さえよければ世界はどうなっても構わないという反グローバリズムに陥り、ポスト・トゥルースを生む。その原動力がインターネット社会である。
本来、ツイッターやフェイスブックをより多くの人々が利用することで、世界がさらにオープンになり、人々がつながっていく。人々が多種多様な意見や考えに触れるようになることで大きな知恵が生まれ、広く民意をとらえて民主主義を実現していく。社会を良い方向に前進させることができる。

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