昨年(2016年)7月31日 小池百合子東京都知事が誕生した。「厚化粧の女に都政は任せられない」(石原慎太郎元東京都知事)等の激しいネガティヴキャンペーンの中、小池氏の得票率は、44.49%。次点の増田寛也元総務大臣は27.4%、100万票以上の差をつけてランドスライド(地滑り)的な勝利だった。驚くことに、東京都62市町村別の得票率は55地点で小池氏がトップ、しかもほとんどの地点で得票率は40%を超えた。
もう一つ注目すべきは投票率だった。東京都によると投票は率59.73%。前回を13.59ポイント上回り初当選知事としては歴代2番目だった。では、一体誰が投票したのか?
小池知事誕生の翌日、昨年8月1日の読売新聞が出口調査の結果を伝えている。調査では240ヶ所10669人が回答した。それによると自民党支持層から55%が党の方針を無視して小池氏に投票しているが、どの党も支持しないという無党派層からも49%が小池氏に投票した。前回の参院選では、大きな動きが見えなかった無党派層から”山”が動いていた。
今年(2017年)1月7日から9日にかけてNHKが行った世論調査によると政党支持率は、自民党38.3%、公明党3.5%、民主党8.7%等と続くが、しんがりは無党派層38.3%である。そこで、過去の毎月のデータをみると、無党派層支持は自民党に極めて近い数字で2位を続けるが、昨年(2016年)10月調査では、自民党支持37.1%に対して無党派層支持は37.8%となってトップに立った事もある。いずれにしても最近2年間をみると自民党と無党派層という二つの大きな”岩”に対して民進党などの”小石”がズラリと並ぶという政界風景が続いている。
その政界であるが、先月(1月)20日から通常国会が始まった。先月24日は野党第一党の党首として蓮舫代表が「日本型ベーシックインカム」(中低所得層の社会保険料を軽くして国が補てんするというもの)を提案するなどしたが、安倍政権の回答は概ね素っ気ない。新聞各紙は野党第一党の政策とあってそれなりに大きな紙面を割いた。同様の現象は憲法を巡るやりとりでも同じだった。”熱心に”伝ようとする新聞の使命はよく理解できるが、何かが欠けている”空しさ”も感じる。
「無党派層」とは何か? 大学などを中心にすでに多くの研究が明らかにされている。所得をはじめとする格差の拡大が背景にあるという指摘が多い。特に多くの調査研究が所得中間層が大きく減って、代わりに、富裕層(高所得層)と低所得層(貧困層)の拡大がこの20年間に進んだとしている。又、一部の研究は、富裕層が賛成する高負担・高福祉に対し低所得層は、実は、増税を嫌って強く反発している事、低所得層は決して革新的ではなく、例えば、民進党支持ではなく むしろ、保守的であるとしている。
昨年11月8日アメリカでトランプ新大統領が誕生した。アメリカでは、日本よりはるかに早くから、そしてより激しく、特に白人の間で格差が拡大していた。トランプ氏は白人の間で進んだ格差というマグマを追い風に接戦を制してホワイトハウスに滑り込んだ。
アメリカでは、かなり早くから格差の研究が進んでいた。例えば、ジップコード(郵便番号)によって、全米の住居を地区別に別け、地区ごとに格差を研究した。富裕層が住む地区では、子弟の有名大学への進学率が高く、住民の健康状態も良く長寿者が多いこと、多くがゲーテッドシテイと呼ばれる安全が確保された特別な地区に住む事、一方、低所得層(貧困層)では、多くが、学歴は高卒までである事、離婚率が高く、しかもほとんどが母子家庭となっていて、健康面では、麻薬中毒、アル中も珍しくなく、しかも職につく者は少ない等の”残酷”とも言える実地調査もある(「階級断絶社会アメリカ 1960-2010 」チャールズ・マレー)。
今回のアメリカ大統領選で大手メディアはこうした変化を甘く見た様だ。いや、変化を深く取材し報道する事を怠って来たという指摘もある。アメリカの調査会社、ギャラップ社によるとメディアへの信頼度は、1976年73%だったが、昨年は、32%まで落ちたという。
無党派層について、日本のジャーナリズムは、適時よい報道を続けてきていることは間違いないだろう。だが、このままでよいのか?
政治勢力としては、政権党自民党に匹敵する事実上の”野党第一党”無党派層を取材上のより重大なテーマとするべき時がきているのではないか?これまでの既存政党の報道中心では大きな空洞を残してしまう。無党派層をより真剣に、重層的に、かつ、継続的に分析・報道しなければ、やがてメディア不信となってジャーナリズムは報いを受けるのではないか。
陸井 叡( 叡Office )