「コロナワクチン」長いスパンでの接種後の影響が気になる

順番が回ってきたら接種するつもり

 65歳以上の高齢者への「新型コロナワクチン」の接種が、4月12日から始まる。医師や看護師などの医療従事者に次ぐ優先接種だ。喜んでいいのか分からないが、今年10月の誕生日で65歳になるのでこの高齢者接種グループに入れてもらえる。順番が回って来たら打つつもりである。

 接種対象の高齢者は6500万人に及ぶ。だが、ワクチンの供給量はかなり少なく、最初は各都道府県に2000~1000人分ずつしか配られない。高齢者への接種が本格化するのは、早くても5月に入ってからだろう。2月17日からスタートした医療従事者への接種の方は、希望者が480万人に上り、現在も続けられている。

 新型コロナワクチンは、免疫力(抵抗力)が低下して新型コロナ特有のサイレント肺炎や血栓症などで命を落とす危険がある高齢者にとっては欠かせない。

 高齢者への接種に続いて心臓病や血糖障害などの基礎疾患(持病)のある人への接種も始まる。多くの人々が免疫力をつけ、新型コロナ禍を収束させたい。

■「mRNA」も「ウイルスベクター」も初の実用化

 今年1月号の「message@pen」でも書いたが、新型コロナワクチンの主流は「m(メッセンジャー)RNAワクチン」と呼ばれる遺伝子ワクチン(核酸ワクチン)である。

 製造方法が鶏卵などを使う細胞培養の従来タイプのワクチンとは大きく異なり、ウイルスそのものを使わない。人工合成されたRNAの断片をメッセンジャーとして人体に投与し、抗原のウイルスタンパクを体内で作り出し、抗原抗体反応を利用して発症や重症化を予防する。アメリカの大手製薬会社ファイザーとドイツの製薬メーカービオンテックが共同で開発したものと、アメリカのバイオテクノロジー企業モデルナが製造したものとがある。

 ファイザーによると、製造の時間が極めて短いうえ、有効性もかなり高い。イスラエルで今年1月17日から3月6日までに同社のmRNAワクチンの2回目の接種を受けてから2週間後の時点での健康状態を非接種者と比較したところ、発症と重症化、それに死亡を予防する効果が97%にも上り、不顕性感染の無症状キャリアを予防する効果も94%と高かった。

 mRNAワクチンと並んで高い有効性を示しているのが、イギリスの製薬会社アストラゼネカの「ウイルスベクターワクチン」だ。日本では2月5日に承認申請され、厚労省が審査を進めている。

 ベクターとは運び屋のことで、チンパンジーなどの弱毒のアデノウイルスを運び屋にして新型コロナの遺伝情報を組み込んで製造される。エボラ出血熱のワクチンとして近年、接種され始めたが、広く一般に使われているわけではなく、mRNAワクチンと同様、今回が初の実用化である。しかも2つのワクチンとも各国が特例でスピード承認している。

接種するか否かは「リスク&メリット」

 ワクチン肯定派の私でも、実用化が初めてだとどうしても気になることがある。接種直後の副反応は、強いアレルギー反応のアナフィラキシーや血栓を除けば、腫れ、筋肉痛、発熱など想定の範囲内だ。しかし半年後、3年後、5年後という長いスパン(間隔)で人体に与える影響は不透明である。明確に答えられる専門家はいない。

 専門家は「投与されたmRNAなどは消えてなくなる」と説明する。だが、抗体ができるわけだから人の遺伝子に何らかの跡(記憶)は残るはずだ。勝手な杞憂だが、中長期的な視野に立って安全性をスパコンやAIを駆使して分析すべきではないか。

 私のような高齢者はともかく、若者には大切な将来がある。しかも若年層はほとんど重症化しない。独断と偏見で恐縮だが、若い人への投与は性急になる必要はないと思う。

 基本的に薬やワクチンは人体にとって異物であり、副作用や副反応はどうしても避けられない。だからそのワクチンを打つべきか否かを考えるときの基本は、「リスク&メリット」である。副反応と効果を天秤にかけ、接種のメリットの方が上回るようなら打つべきだ。ただ、高齢者にとって大きなメリットがあるからといって、若者にそれだけのメリットがあるとは限らない。

■思い出す「手術は必要悪」という師の言葉

 ここで新型コロナの2つの特徴をおさらいしておきたい。1つが「感染者の8割は他者に感染をさせていない」だ。感染は換気の悪い3密の環境下で拡大する。もう1つが「80%以上の患者が軽症や無症状で回復している」だ。昨年2月にWHO(世界保健機関)が公表した。

 この2つの特徴に加え、日本は人口100万人あたりの死者数が欧米のそれに比べて数10分の1以下と極めて少ない。どのような患者が重症化するのかはほぼ解明されているし、重症化を防ぐ治療方法も確立しつつある。

 行政も国民もこうした視点も認識しながら、ワクチン接種に余裕を持ってほしい。供給不足から生じるワクチンの奪い合いなど以ての外である。

 ところで、医学・医療における私の師だった東京女子医大名誉教授の太田和夫先生(2010年7月に79歳で死去)から度々聞いた「手術は必要悪だ」という言葉を思い出す。太田先生は東大第2外科の助手時代の1964年3月、日本で初めて腎臓移植手術を成し遂げたが、あの和田心臓移植がこの4年後だったことを考えると、太田先生の業績の大きさが分かる。

 話を戻す。ワクチンは手術と同じように「必要悪」なのである。役立つ反面、害もある。リスク&メリットがある。それゆえ、接種に関しては決して前のめりにならず、一歩、半歩と引いて考えたい。

木村良一(ジャーナリスト、元産経新聞論説委員)

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