格差論争の本格化-ピケティ記者会見から-

 フランスの経済学者トーマス・ピケティさんが昨日(1月31日)東京・千代田区の日本記者クラブで会見した。土曜日の午前10時半という記者会見としては異例の時間だったが、会場には凡そ300人というプレス関係者らが詰めかけ、クラブを訪れたフランス人としてはミッテラン、シラク 両大統領とほぼ同じ取材陣の多さだという紹介が司会者からあった。
 又、ピケティさんは、ノーネクタイ 、”フランス訛り”の英語で語りかけ、著書「21世紀の資本」を世界の多くの人に知ってもらい、理解して貰うために英語を選んだと語るなど会見は率直な雰囲気の中で進められた。著書は、2013年夏フランスで出版されたが、翌年 アメリカで英語版が発行されると世界的なブームとなった。
 さて、昨日の会見では、ピケティさんは著書を支える膨大なビッグデータのうちから、アメリカ、EU、日本などについて、世界恐慌があった1930年代から今日まで凡そ80年に亘る国民所得格差の変化をグラフで示した。そして、日本は未だアメリカほどの所得格差社会ではないもののほっておくと深刻化して経済成長の妨げとなり、やがて社会不安 を引き起こし、民主主義の危機ともなりかけないと述べ、具体策として、所得再分配のための累進課税の強化、特に、富裕層から若年層への所得移転策を日本も真剣に考えるべきだと主張した。

 この後、ピケティさんの説明は短く20分程度で終わり残り一時間余りが参加者との間のディスカッシヨンとなった。先ず、アベノミクスについて問われると 「私は本の紹介ために来た」とやんわりと質問の矛先をかわした。しかし、去年4月から実施された消費増税について「うまくいってない(経済成長を妨げている)」と分析、財政再建のための緊縮政策についてもその効果を疑問視し、更に、安倍政権の看板政策の一つ法人税の引き下げや、大企業からやがて中小企業へと利益が降ってゆくという”トリクルダウン”についても否定的な見解を示した。そして、これらの政策の代わりに、働く人々 、特に 若者 そして、女性の賃金を引き上げる事、具体的には、富裕層、大企業に積み上がっている所得から若者などへの移転が必要だと持論を展開した。
 このほか、会見では、中国について 例えば、所得税体系が不透明な上、特に地方政府の腐敗もあって経済の実態が明らかにされていないとした上で、経済の透明化・民主主義の実現は難しいと分析した。
 このようにピケティさんの視点はどちらかと言えば経済学者というより社会政策学者という側面が強い。日本では、早速 、読売新聞が社説で「累進所得課税の強化は(悪平等を招いて)国民の働く意欲を妨げる」などの反論を掲載、国会でも取り上げられるなど”ピケティ旋風”が吹いている。中には、「当たり前の事を言っただけだ」との声もあるようだが、ピケティさんの単純明快さにこそ真実があるのではないか。コロンブスの卵という例えもある。
陸井叡( 叡Office代表 )  

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