連携する日米、行き違う韓国

■ 首脳会談で連携する日米

 アメリカがアジア外交を活発化させている。中国と対立を深めるアメリカ、そして日本、韓国も絡み合い、目まぐるしく動く。

 バイデン政権はアジア重視の姿勢を明確にしている。3月中旬以降、日米豪印4か国による安全保障の枠組み「クアッド」の首脳会議、日米、米韓の「2+2(外務・防衛閣僚会議)」、日米韓3か国の安全保障担当高官会議と続けた。4月の日米首脳会談はバイデン大統領が外国首脳と初めて対面する会談としても注目された。いずれの会議、会談でも、「対中戦略」と「北朝鮮の非核化」が焦点だ。日米首脳会談の共同声明がそれを明確に示している。声明は、「自由、民主主義、人権、法の支配、国際法、多国間主義」などの普遍的価値と共通の原則によって、日米両国が結び付いていると強調する。また、「ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動に懸念を共有」し、東シナ海における「一方的な現状変更の試み」や南シナ海での「不法な海洋権益に対する主張及び活動」に反対すると表明した。さらに、「台湾海峡の平和と安定の重要性」に言及し、「北朝鮮の完全な非核化へのコミットメント」を再確認したと記されている。加えて、感染症対策、気候変動、人工知能などの研究開発、半導体サプライチェーンなど、多岐にわたる分野での協力を確認するものとなった。

 日米同盟は「インド太平洋地域の平和と安全の礎」と表現する。その声明は日米が連携を強めて中国をけん制するという、メッセージでもある。

■ 韓国は綱渡り外交

 韓国は安保ではアメリカ、経済では中国に依存する。アメリカが重視する日米韓の連携から、韓国が距離を置く所以だ。また、米中の間で「綱渡り外交」を維持する背景でもある。

 4月初め、これを象徴するニュースがあった。韓国のチョン・ウィヨン外相が中国の招きで福建省・厦門(アモイ)を訪れ、王毅外相と中韓外相会談を行った。2月に就任したばかりのチョン外相が初の外国訪問として、アメリカでなく中国を選んだのはきわめて異例だ。会談では、朝鮮半島の非核化の実現に向けて中韓の協力拡大と中国の果たすべき役割について論じたという。見逃せないのは、中国・厦門の中韓外相会談とほぼ同時に、日米韓による安保担当高官会議がアメリカで開催されていた点である。北朝鮮の非核化をめぐって、中国との協力を約した韓国がアメリカでは日中韓の連携を確認するという、いわゆる「二股外交」を展開したように受け取れる。中国訪問に先立って、チョン外相は「アメリカは唯一の同盟国、中国は最大の貿易相手国」で、「米中両国は(どちらか一方を選ぶ)選択の対象ではない」と強調している。しかし、その言動は「韓米同盟こそ韓国外交の根幹」という、ムン・ジェイン政権の立場とはいささか異なり、中国寄りとの指摘も無理はなかろう。

 綱渡り外交には曖昧さが付きまとう。曖昧さを弱点と見る中国が韓国に対してアメリカの対中戦略に加わらないよう圧力をかけていると見るべきだろう。

  • 日韓関係に変化の兆し

 アメリカは、対中戦略と北朝鮮の非核化に向けて日米韓の連携を強く求めている。その一翼を担うべき日韓の関係は、ここ数年歴史認識問題で厳しく対立し、冷え切ったままだ。その関係に微妙な変化を来す二つの出来事がこの半月ほどの間に起こった。

 日本政府は13日、福島第一原発から出るトリチウムなど放射性物質を含む「処理水」を海へ放出することを公表した。韓国政府、世論ともにすぐ日本非難の声を上げたのは言うまでもない。その後、処理水の放出にあたっては、トリチウムの濃度を国際的な飲料水の基準の7分の1程度に薄めること、世界各国の原発からの放出量は福島とは桁違いに多い国があり、韓国の原発からも放出されていることが伝えられる。IAEA=世界原子力機関は「科学的に妥当」との判断を示し、韓国の専門家チームや原子力学会も科学的に「問題ない」「影響は微々たるもの」と結論付けたことも明らかになった。事の本質を捉えた科学的・国際的な情報が浸透し始めたことで、風評被害への懸念は残るものの、韓国内の批判の声は冷静さを取り戻し、収まりつつあるように見える。

 続いて、ソウルの地方裁判所は21日、元慰安婦らが日本政府に損害賠償を求めた二つ目の裁判で、原告敗訴の判決を言い渡した。この裁判は、元慰安婦ら20人が日本政府に30億ウォン(日本円で2億9000万円)の損害賠償を求めていたものだ。判決は「外国の主権行為については、損害賠償の訴えは認められない」として、国際法上の「主権免除の原則」を適用し、原告の訴えを退けるものとなった。これは、「主権免除の原則」を適用しなかった1月の判決とは正反対で、韓国内に波紋を広げるものとなった。また、2015年の日韓慰安婦合意は元慰安婦の女性たちの救済手段であったとし、「合意は今も有効」と指摘している。さらに、慰安婦問題の解決は、「外交交渉を含む韓国の内外での努力によって達成されなければならない」とし、日本政府の主張にほぼ沿った判決となった。この判決について、韓国の革新系紙ハンギョレが「没歴史的な判決」と批評した。一方、保守系紙は判決を冷静に分析し、「韓日外交で解決を(中央日報)」「最初から外交で解決すべきだった(東亜日報)」など、慰安婦問題の解決は外交に委ねるべきと論じている。こうした変化はどこから生まれてくるのだろうか。

  • 韓国の行き違いは続く?

 韓国の国内で汲み取れる微妙な変化について、単に情緒的反応とか判決の解釈問題とするのでは表面的に過ぎよう。韓国社会、ひいては日韓関係に表れる変化は、先の日米首脳の共同声明が象徴するように、国際基準や国際法秩序を尊重する時流に合わせて、ムン政権が意識を変化させたものとみるべきである。

 ムン政権を取り巻く環境は内外ともに厳しい。「内憂外患」そのものだ。国内では、4月7日に行われたソウルとプサンの2大市長選挙で、与党「共に民主党」の候補が野党「国民の力」の候補に大敗した。いずれも与党系前市長がセクハラ疑惑に問われ、自殺または辞職したことに伴う選挙で、一連の不動産スキャンダルも影響したものと見られる。ギャラップ社の世論調査(4月30日)では、ムン大統領の支持率が初めて30%を下回り、「レームダック化」との声も聞こえてくる。

 一方、ムン政権の外交政策は南北融和を基本とする。2018年のピョンチャン冬季オリンピック以降、南北対話を進展させ、米朝の仲介役も果たし、米朝、南北首脳会談を繰り返してきた。しかし、完全な非核化を目指すアメリカと制裁解除を求める北朝鮮の思惑は外れ、米、韓、北朝鮮ともに相互不信を募らせている。ムン大統領は21日、ニューヨークタイムズとのインタビューで、バイデン大統領が「失敗作」と位置付けたはずの「2018年のシンガポール合意」に基づき、米朝交渉を再開させるべきとの考えを示したという。また、米中対立に関連して、「米国は中国と協力すべき」と促したともいう。ムン大統領の言動は、北朝鮮の非核化であれ、対中戦略であれ、日米の共同声明と行き違っていないだろうか。

 残りの任期が1年となったムン大統領。南北融和を政権レガシーとすることを願っていよう。5月21日の米韓首脳会談で、行き違いをどこまで解くことができるだろうか。

羽太 宣博(元NHK記者)

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