次の10年はもっと大事~3/11語り部バスは続く〜

 私たちはあの日、2011年3月11日、「東日本大震災」という一生消えない心の傷となる、二度と起きてほしくない災害を経験致しました。辛すぎて悲しすぎて、時間が経過しても忘れることが出来ないものであり、そこから逃げ出したかった日々がありました。失ったもの、奪われた命の大切さは想像以上に大きすぎて、誰もが災害の当事者になってほしくないと心から願います。ただ、震災を語り、伝えることはそれだけでなく、私たちにとって本当に大切なことに気づくキッカケにもなり、この震災で得た気づき、学びを次の未来に向き合っていきながら、命あることの幸せもずっと伝えていきたいと思いを強くしています。過去の教訓を伝えるだけでなく、次の未来へどう生かすべきなのか、そして生かすために伝え続ける思いは10年経過しても変わりません。

 これからも「震災を風化させないための語り部バス」をはじめあらゆる手段、機会、取り組みを通じて「伝わるように伝える」ことを続けていきたい思いです。

 東日本大震災。2011年3月11日午後14:46に太平洋域を震源とし発生したM9.0、最大震度7強の大地震は同時に大津波を引き起こし、故郷南三陸町も甚大な被害を受け、町の犠牲者は831名にも上りました。あの日3月11日の朝、みんな夜の眠りから目覚めたときに、その日に自分の人生が終わるなんて思った人はいなかったはずです。そんな当たり前の思いさえ、あの災害の前には人の力は無力で、しかもこんなにも心が破壊され、引き裂かれるなんてことは思いもしないし、自分がそんなことに遭遇するなんて、いかに災害への備えが大事と言われ続けていても、自分のことになるなんて日常普通に過ごしている中では、やはりどうしても想像することは難しいと思います。

 私自身が幸運だったことは職場だった南三陸ホテル観洋そのものが高台の地盤が固い場所に建設されていたことで、震度6弱で揺れた激震の中、館内のお客様、従業員だけでなく、住民や立ち寄りの来町者の方々の命を守ることができました。公式な指定避難所ではなかったホテルですが、大勢の方々の命を守る砦となる事を決意すると同時に復興の牽引役となる使命を感じ、避難所の役割を担いました。やがて住民と従業員、ボランティア、医療関係者・工事関係者、最大1000人以上が生活を共にし、多くの方々が関わる避難所運営を行い、自助・共助の取り組みを率先して行ったあの時でした。生きるために何をすべきか、どう心を保つか、そんな厳しすぎる試練を突きつけられた状況の中でいくつも大切なことに気づき、生きることへの問いかけを試された日々がありました。

 「災害とは物もたくさん壊すけど、いちばん壊したのは人の心だった」。あの時の悲惨さ、辛さ、悲しさ、虚しさが、人の気持ちによって何十倍にも増幅され、正常であることが異常であるような追い込まれた心、精神状態を何度も目の当たりにしたことで気付けたと思います。体の痛みだけでなく、心の痛みが完全に癒えることはないかもしれません。物の備えも大事だけど、心の備え(心構え)がいかに大事かということも自分の中では大切な教訓の一つになっています。辛い日々があったとしても、そんな壊れそうな心を救ってくれたのも人の思いであり、災害の場面場面でも人の判断、決断、行動で命を守れたことも伝えていくこれからの私たちでもあります。

 災害その後においても、それまで考えなくても良かった当たり前の日常風景やそこにいたはずの人がもういない風景が目の前にあり「そんなことあってたまるか」、と思いつつ、災害から助かって生き残った自分には生き延びる力が無いこと、何の備えや準備も無かったことを突き付けられました。そんな自分にもたくさんの支援、応援があったから、今でも温かい心の支えが繋がっているからこうして元気で毎日を過ごせる感謝の思いもずっと長く広く伝え続けていきたいと思います。

 2011年からずっと走り続けてきた「震災を風化させないための語り部バス」は地震、津波の状況だけでなく復興への歩みや地域の情報発信も伝えることで地域の活性化、交流人口の拡大に繋げていく目的も大事な目的となります。震災そのものの記憶は時間の経過と共に薄れていくだけでなく、そのことが「なかったこと」になっていくこともやがて気づき始める今、10年間、確かに頑張ってきたけど、次の10年はもっと大事なのではないかと思います。10年ごとに区切りとか節目とかいうことも大事なことだとは思いますが、だからこそ日々続けていくことも大切にしていきたいと単純ですが思っています。

 災害に対して100%完璧な備えも、正しい答えも存在しない。いつも何かは想定外であるからこそいろいろな想像力を働かせ、一人でできないことはみんなで繋がって共に取り組んでいくことこそ、まずは答えが出せなくても、伝えていくことでキッカケとして問いかけになればと思います。

 まずは現地に足を運んでほしいと願います。そこで見て、聞いて、感じたことはバーチャルでも及ばないものであり、次へ向かうための土台になり、始まりとも思います。

 災害だけでなく自然の営みを私たちは改めて学び、思い出し、過去から現在、そして未来へと一人でも多くの方へ伝えていくことを、それを紡いでいくことを願い、手と手をつなぐ温かさと命のたいせつさを自分自身でも守っていきます。語り部としても、ひとりの人としても変わらずに守っていきます。

 次の10年は私にとっても皆さまにとっても学び合える10年になり、南三陸での出会いが生まれることを心から願っております。

伊藤俊(南三陸ホテル観洋)

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