大阪・関西万博への関心ふつふつと

東京オリンピック・パラリンピックを間近に控え、東京発メディアの五輪報道が熱を帯びて来た。一方、2025年に開かれる大阪・関西万博の動きは地方開催のせいか、さっぱり伝わって来ない。だが、地元大阪では去年後半に入って関心がふつふつと高まっている。特に、五輪後に景気が急速に落ち込む「ポスト五輪」のビジネス機会を見据えた企業が情報収集に躍起になっているようだ。
12月9日、大阪国際会議場(大阪市北区)で開かれた「2025大阪・関西万博に向けた未来社会デザイン国際シンポジウム」(日本抗加齢協会主催、大阪商工会議所など共催)。会場はビジネスマンら約500人でぎっしり。「大阪未来図をかたちづくる大型プロジェクト」「大阪パビリオンの提案」「大阪パビリオンをかたちづくるイノベーションを考える」の3セッションに、企業経営者、研究者ら23人が登場した。
石毛博行・2025日本国際博覧会協会事務総長は「ものを見せる万博から、世界とともに人類の課題に深く取り組む共創の万博にしたい」と強調。森下竜一・大阪大大学院医学系研究科教授(日本抗加齢協会副理事長)は「10歳若返るパビリオン」構想を提案した。入館者は血液、脳、肌などの年齢を測定し、若返りに必要な食事やプログラムを提供してもらうコンセプトのようだ。森下教授は日本万博基本構想委員でもある。大阪大基礎工学部4年、佐久間洋司氏は「人工知能(AI)やバーチャルリアリティー(VR)などの最先端科学を使って人の意識に働きかけて『共感』を呼び起こす、新しいコミュニケーションを提示するパビリオン」を提唱した。
吉村洋文・大阪府知事、松井一郎・大阪市長も鼎談のコーナーに出席。「関西空港から夢洲(ゆめしま)の万博会場まで『空飛ぶタクシー』を実現したい」(吉村知事)、「夢洲を『スーパーシティ特区』にしたい」などと語った。スーパーシティは、人工知能(AI)やビッグデータなどを活用した最先端都市で、内閣府が構想を打ち出している。
大阪では、行政や経済団体などが主催するこの種のシンポジウムが相次いでおり、毎回のように募集定員を上回る申し込みがあるという。国、経済界、地元自治体で組織する日本国際博覧会協会が去年1月に設立され、活動が本格化してからイベントが増え出した。大手企業の中には、「大阪・万博IR室」(大林組、18年12月)、「夢洲開発本部」(竹中工務店、19年3月)といった専門部署を新設するところや、大阪に出先オフィスを構えるベンチャー企業も現れた。
佐久間洋司氏のように、万博に関心を寄せる若者たちのグループも目立つ。例えば、関西の医学生を中心としたグループ「WAKAZO」は昨年初め、独自のパビリオンの設置を大阪府に提案した。「いのち輝くとはどういった状態か、未来社会はどうデザインされるべきなのか」を世界の若者たちと考える実験場にしたいという。大阪市立大と大阪府立大の学生有志も去年、プロジェクトチーム「Honaikude」を結成。「飛び立て宇宙へ」をテーマに勉強会を開いたりしており、パビリオン出展も考えたいとしている。
難航が予想されていた関西経済界の資金集めの目標にもめどがついた(昨年11月15日付日経新聞)。万博の会場建設費の試算額は約1250億円で、国、大阪府・市、経済界が3分の1(約400億円強)ずつ負担することになっている。経済界が負担する400億円の配分は関西経済界で約200億円、発祥地が大阪である住友グループと経団連で約100億円ずつ、としていたが、関西経済界の負担分は200億円を上回る見込みという。
万博会場は、大阪湾の人工島の夢洲南西部の125㌶。150か国・地域からの参加を見込み、2800万人の来場者を目指す。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。コンセプトを「未来社会の実験場」としている。先端医療、AI、VRなどを駆使した未来型のパビリオンが並ぶことになりそう。開催期間は25年4月13日から10月13日までの184日間。当初案では、「5月3日~11月3日」だったが、5月連休と重なり混乱が起きるのを避けるため、政府が前倒しすることにした。
大阪府・市は万博会場の隣接地にカジノを含む統合型リゾート(IR)を誘致して、万博開幕前の開催を目論んでいたが、工期が間に合わない恐れが出て来たことや博覧会国際事務局(BIE、パリ)がわが国政府に、万博期間中はIRを開業しないよう要請してきたことなどから断念。首尾よく国の認可を得たとしても全面開業は約2年遅れになりそう。府・市は12月24日、IR事業者の募集要項を公表、事業者の公募を始めた。IRについては、ギャンブル依存症が増える懸念があることなどから根強い反対があるが、横浜市のような反対集会などの動きはまだない。
七尾 隆太(元朝日新聞記者)

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