権力に屈しない若き女性たちが世界を変えていく

ロイターの写真がトランプ大統領との戦いを象徴する

地球温暖化対策を求め、ストレートに怒りをぶつける迫力には驚かされた。

9月23日、ニューヨークの国連本部で開かれた「気候行動サミット」でのグレタ・トゥンベリさんの演説である。スウェーデンの環境活動家だそうだが、あの強い口調と厳しい表情はとても16歳の高校生の少女とは思えない。各国の政府代表も彼女の迫力に圧倒された。

「(各国代表の)あなたたちが関心を寄せるのは、お金や永続的な経済成長というおとぎ話です。対策に失敗すれば、その結果と生きていかなくてはならないのは私たちです」

「すべての未来の世代の目はあなた方に向けられています。私たちを裏切るなら決して許しません」

「私たちはあなたたちを見ている」

「もう逃がさない」

おもしろかったのが、新聞各紙に掲載されたロイター通信の写真だ。国連本部に到着して記者団の質問を受けるトランプ米大統領の背後からグレタさんが睨むような目つきで見つめている。グレタさんと地球温暖化対策に消極的なトランプ氏との戦いをみごとに象徴していた。世界の報道機関で評価の高い写真だと聞くが、ピューリッツアー賞を受賞するかもしれない。
ハフポストUK掲載写真リンク

ツイッター攻撃にすかさず皮肉で応戦する賢さ

グレタさんはスウェーデンの首都ストックホルムの出身だ。昨年9月の総選挙で議会前に1人で座り込み、地球温暖化対策を求める活動を始めた。それ以来、毎週金曜日に学校を休んで座り込みを続けている。こうした彼女の活動が注目を集め、同年12月にはポーランドで開かれた国連の気候変動枠組み条約会議(COP24)に招かれ、演説を行った。今年9月にはノーベル平和賞に準じるライト・ライブリフッド賞を受賞している。

気候行動サミットでは、国連のグテレス事務総長が「77カ国が2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロとする目標を公表した」と語った。しかし、トランプ氏はアメリカが排出国世界第2位にもかかわらず、来年11月にCOP21のパリ協定から脱退する方針を表明している。今回の気候行動サミットにも不参加の予定だったが、突然、会場に現れた。

報道によると、グレタさんの演説を聞いたトランプ氏は「明るく、すばらしい未来を楽しみにしているとても幸せな少女のようだ」とツイッターに書き込んだ。これを読んだグレタさんはすかさず、自分のツイッターのプロフィールに同じように書き込んだ。トランプ氏の皮肉交じりの攻撃に皮肉で応戦したのである。トランプ氏もたじたじだ。16歳の少女にしては出来過ぎとも思うが、彼女は本物なのかもしれない。

 

ポピュリズムと自国第一主義で世界が混沌としている

気候行動サミットでの演説の翌日、トランプ氏を擁護する米テレビ局FOXのニュース番組で評論家が「彼女は精神的に病んでいる。両親や左翼に利用されている」と酷評したが、結局、FOXが謝罪に追い込まれた。

グレタさんは自ら「アスペルガー症候群」と公表し、「アスペルガー症候群は才能であって決して障害や病気などではない」という発言も行っていた。アスペルガー症候群とは自閉症の一種で、コミュニケーション能力に欠ける疾病だ。

グレタさんをテレビで見ていると、民主主義と自由を求めて中国の習近平(シー・チンピン)政権と闘う香港の22歳の周庭(英名アグネス・チョウ)さんや、頭部に銃弾を受けても負けずに女性への教育を求め続け、2014年に17歳でノーベル平和賞を受賞したパキスタン出身のマララ・ユスザイさんと重なる。彼女たちは15世紀のフランスの国民的英雄、ジャンヌ・ダルクをも連想させる。

ポピュリズム(大衆迎合主義)が蔓延り、トランプ氏のような自国第一主義を唱える政治家に人気が集まり、世界中が混沌とした嵐に包まれている。その一方で、周さんやマララさん、そしてグレタさんのような若い女性たちが自由を求め、目覚ましい活躍を見せている。そんな女性たちがいまの世界を変えていくに違いないと思う。

 

ジャンボ機墜落事故の遺族会事務局長もそんな女性の1人

ところで私がこれまでに直接取材した女性の中にも、優れた活躍をしている人は多い。

たとえば日航ジャンボ機墜落事故の遺族で作る「8・12連絡会」の事務局長を務めてきた美谷島(みやじま)邦子さんだ。

美谷島さんたちは遺族の絆を重視し、会の名称から「遺族」の2文字を削ることや会を日本航空との補償交渉の窓口にしないことを決め、会を維持してきた。

事故当時、美谷島さんは38歳だった。事故では小学3年生になる次男を失った。「なぜ、9歳の子を1人で乗せてしまったのか」と自らを責め続けながらも、遺族の悲しみや怒り、悔しさを癒してくれる8・12連絡会を事務局長として築き上げ、34年間に渡って活動を続けてきた。他の事故の遺族との交流も推し進めた。

それまでごく普通の主婦だったひとりの女性が、悲しみのどん底から這い上がり、境遇の違う遺族たちをひとつにまとめ上げ、同じ方向に引っ張って行く。その努力は並大抵のものではなかっただろう。頭が下がる。

美谷島さんと知り合ったのは事故から数年後だったが、その後も取材を続け、いまも多くのことを学ばせていただいている。

グレタさんや周さん、マララさんたちからも多くを学びたいし、若い女性たちが今後、どんな活躍を見せてくれるのか、還暦を過ぎた元新聞記者にとって大きな楽しみである。

木村良一(ジャーナリスト)

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