背を向け合いつつ~日韓の”交流おまつり”~

 9月28日と29日の2日間、日韓両国の文化を紹介し合い、友好を深める「日韓交流おまつり」が開催された。この催しは毎年秋に東京とソウルでそれぞれ開かれる市民交流の舞台だ。会場の日比谷公園では大勢の市民が集い、伝統芸能やK―POPコンサート、それに韓国の露店料理などを楽しんだ。今年のスローガンは「新たな明日へ」。開会式の祝辞では「出口が見えないときだからこそ、草の根の交流が必要」「難しいときにこそ、しっかり続けるおまつりが貴重な輝きを放つ」などの表現が相次いだ。ナム・グァンピョ駐日韓国大使は「民間レベルの根の深い交流は日韓の浮き沈みに関係なく続いてきた」と述べ、友情を引き継ぐおまつりの意義を強調した。一方、昨今の日韓関係は対立の構図が鮮明となり、刺々しさを増している。市民や自治体交流も相次いで中止・延期されるなか、「新たな明日へ」の言葉を掲げたおまつりは、背を向き合わせたまま明日の見えない日韓の厳しい現実を否応なしに考えさせるものともなった。

 日韓関係は、ナム大使の言う「浮き沈み」を繰り返してきた歩みをもつ。日韓の両国は、関係が悪化するたびに知恵を絞り、対話・協議し、修復するための術を持ちあわせていたとも言えよう。去年秋以降の日韓関係は、戦時徴用をめぐる韓国の大法院判決、慰安婦合意に基づく「癒し財団」の解散などの歴史認識問題が相次ぎ、レーダー照射問題などとも相まって、冷え切ったものとなった。また、7月には日本が安全保障上の観点から韓国向け半導体関連の素材3品目について輸出管理を強化し、韓国側が激しく反発。日本に対抗して輸出管理で優遇する「ホワイト国」から日本を除外、オリンピックでの旭日旗の使用自粛を要請、福島原発の汚染水問題についてIAEAに提起、日本の輸出管理強化についてWTOに提訴するなど、日本への対抗心を露わにした言動が目立つ。さらに、韓国はGSOMIA・日韓軍事情報包括保護協定を延長せず破棄することも決め、日米韓の枠組みを蔑ろにする動きとして、北東アジアの安全保障の観点からも懸念する声が上がっている。このうち、徴用をめぐる大法院判決は、次元の異なる問題を惹起する。判決の法理は、日本の植民地支配を違法とする前提に立ち、日韓両国の国交を正常化する基盤となった、1965年の日韓基本条約と請求権協定をも否定するもので、日韓関係を根底から覆そうというものだからである。その背景には、植民地支配に対する一方的かつ頑なな歴史認識に加え、南北統一を掲げて米韓同盟や日韓関係を見直そうという、いわゆる「自立派」がムン政権内での影響力を強めていることもあげられる。日韓関係に「新たな明日」がいつ訪れるのか。それを見通す難しさの所以である。

 今、韓国で何が起こっているのだろうか。日本製品の不買運動は3か月経過してもやむ気配はない。日韓の企業に実害も出始めている。8月の訪日韓国人は前の年に比べて48%も減り、航空路線の縮小・減便も相次いでいる。ムン大統領は、家族ぐるみの不正疑惑が相次ぐ側近、チョ・グク氏を法務長官に任命。国民や野党の厳しい批判を受けながらも、26日の世論調査では48.5%と支持率が3%あまりも上昇したという。ソウルでの駐在以来、韓国情報と向き合い続けているが、日韓がちんこ対決の続くこの3か月の間、何よりも目まぐるしい動きに振り回されてきた。加えて、メディアの一方的・断片的・恣意的な表現に、道筋が曖昧で不可解な情報もあり、事実を確認するのに困惑することもあった。7月17日、ムン政権は大手保守系紙、朝鮮日報と中央日報の日本語版社説について、誇張した見出しが日本での「嫌韓」を煽っているとして、名指しで批判した。このうち、朝鮮日報では不買運動も受け、日本語版ホームページの「オピニオン」欄に掲載する社説は、8月1日と2日に2本掲載されたものの、その後2か月近く経つ9月28日まで、一切掲載されないという異常な事態が続いている。メディアをけん制する動きはその後確認されておらず、朝鮮日報の自己規制なのであろうか。一方、進歩系紙ハンギョレ新聞では、チョ・グク氏の法務長官任命に先立つ人事聴聞会前日の5日、チョ氏の疑惑を取り上げた司法担当記者のコラムがウェブに掲載されたものの、同紙の論調に合わないことなどを理由にすぐ削除されてしまったという。これに対し、若手記者およそ50人が編集局長らの即時退陣を求める声明を出す反抗騒ぎが伝えられている。こちらも続報は一切ない。関心のあるニュースの続報が得られないことほど落ち着けないものはない。韓国メディアの情報に向き合うには、とりわけ冷静なメディアリテラシーが欠かせない。
 
 この3か月、日韓双方のメディアは韓国の真の姿を伝えているのだろうかと自問する日々を過ごしてきた。日比谷公園の日韓交流おまつりの取材に出かけたのは、その答えを見つける手がかりを求めてのことであった。どんな人が何を目的に会場を訪れ、昨今の日韓関係をどう受け止めているのか、自らの目と耳で確かめたかったからである。11時からの開会式の冒頭の取材を終え、公園内で15人にインタビューすることができた。問いかけたのは今の韓国と日韓関係だった。千葉から来たという中年の女性3人組は「韓国のニュースって何かやらせのようで、あまり見たくない」「政治がからむと、韓国のことを好きとか嫌いとか決めなきゃいけないよう。そんな話には巻き込まれたくないよね」と、メディアへの疑念をぶつけてきた。また、女子大学生の5人グループの1人は「韓国に悪い印象は持ってないです。政治とK-POPは別だと思ってます」「そうよ!そうよ!」と。韓国語を学び始めて1年半という主婦は「国の争いって、どっちもどっち。そういう動きが拡大しないよう、普通の人の声を大事にしてほしい」と言う。今なおメディアに生きる自分が忘れかけた言葉「普通の人」が今も心に残っている。
今回のおまつりの後援団体の一つ、日韓文化交流基金では「韓国人学生と語り合うブース」を初めて設け、訪れた人たちが来日した韓国人学生28人と車座になって本音トークが行なわれていた。その一人、韓国の高麗大学3年のパク・ダハンさんは「今の日韓関係は残念ですよぉ。民間として交流するのが本当に大事だと思います」「8月31日に韓国で知り合った日本人と友達になりました。日本は友達の国になったんです」と。流暢な日本語は高校時代から一人で学んだものだという。メールアドレスを教えてくれたパクさん。年の離れたメル友になれるかもしれない。
元NHK記者 羽太宣博  

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