ミニゼミ報告 教育格差「中野よもぎ塾」を取材して

 2018年度2回目のミニゼミが3月6日、「教育格差」をテーマに、3名の学生と教授・助教授 それにOBGの6名のジャーナリストが参加して、慶應義塾大学三田キャンパスで開かれた。「教育格差」を理解するうえで、東京・中野でおこなわれている無料学習塾「中野よもぎ塾」を昨年12月に取材させていただいた現状を報告、それをもとに討議した。
 中野よもぎ塾は、経済的事情から塾に通えない中学生を対象にした無料学習塾で、毎週日曜日18~21時に開いている。生徒の数はおよそ30人。その半数近くが、母子家庭で育つ子供だ。分数の計算や漢字の書き取りといった基礎のところでつまずいている。3時間のうち、18時から20時までの2時間で5教科について個別指導を行い、20時からの1時間は、トランプをはじめとしたカードゲームなどのレクリエーションにあてているのが特徴だ。
 この中学生に対応するのはボランティアの講師たち。高校生から社会人まで幅広い年代のおよそ30人で、ボランティアと生徒たちの距離は近く、生徒は「友達感覚で話せる」と話していた。
 中野よもぎ塾の代表を務めるのは30代の大西桃子さん。塾を開くきっかけになったのは、8年前にたまたま行きつけのバーの店主の子供を、1か月1万円の破格で家庭教師をしたことだという。勉強を教えているうちに、学級崩壊が原因で、届くべき教育が子供たちに届いていないことに気づいた。学級崩壊がおこり授業が機能しなくなった時、裕福な家の子供は塾に通うことで遅れを取り戻すことができる。しかし経済的事情から塾に通うことのできない子供は、小学校2年生の内容さえも理解しないまま卒業を迎えてしまうことになる。そんな子供たちは、もちろん中学校でも勉強についていけず、ドロップアウトすることになる。 そんな状況に気づいて危機感を感じ、塾に通うことができない中学生を対象に「全員公立高校合格」を目標に無料学習塾を立ち上げたという。昨年度は、通塾していた生徒のほとんどが公立高校受験を突破、自分の道を自分で切り拓きつつある。大西さんは他にも全国の無料学習塾をつなげるための取り組みもしている。
 島根県出身の私が大学進学するまで、ずっと感じていた「教育格差」は、地方と都市で受けられる教育の質に隔たりがあるという地域による教育格差だった。しかし今回の取材や討論を通じて、一口に教育格差といっても指し示すところが幅広いということを感じた。
格差を生むものが、シングルマザーの家庭に生まれ育ったといった経済的理由や地理的理由以外にも、親の意識によるものもある。果たしてどのレベルでの問題を考えようとしているのかを意識しなければならないと感じた。
 また地理的理由・経済的理由による教育格差を考えるとき、「教育のビジネス化」が一つの大きな事象として考えられる。教育のビジネス化が進み、高度な教育を学校ではなく塾で得ようという意識が主流になるにつれて、公的セクターで教育が果たしている役割が小さくなってしまっている。上位大学への進学を考えると、受験戦争が過熱している現状のなかでは公的セクターだけに頼ることは難しいかもしれない。しかし中野よもぎ塾の対象のようなレベルの場合を考えれば、すべての国民に等しく教育ができていない現状はすぐに是正されなければならないと考える。その際に既存の成績が芳しくない生徒を対象に放課後学習を充実させる以外にも公的機関が無料学習塾のような民間の団体に頼るという形があってもいいのではないか。公と民の間にある壁を取り払うことが必要だ、と考えた。
木島 翔子(慶應義塾大学文学部4年)

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