ヒロシマ、ナガサキを伝える NHK民放合同上映会

 今年8月、広島平和記念資料館のメモリアルホールを会場に、「NHK民放番組上映会2018~テレビが記録したヒロシマ」が、5日間にわたって開催された。NHK広島放送局と広島の民放4局(中国放送・広島テレビ放送・広島ホームテレビ・テレビ新広島)が、これまでに制作した核・平和関連番組を共同で上映する取り組みだ。
 4回目となる今年は、1982年放送の“NHK特集「きみはヒロシマを見たか ~広島原爆資料館~」”や中国放送が2016年に放送した“8月6日の切符~あの日列車が走った~”、広島テレビで2016年に放送の“WATCH「被爆米兵」”、広島ホームテレビ2007年放送の“炎の記憶~革命家が見たヒロシマ、そして…~”、2017年にテレビ新広島が放送した“わしらの声は、届くかのぉ~被爆者75歳NYへ行く~”など、13本が上映された。外国人の来場者のため、このうちの3本は英語字幕付きで行われた。上映会が開催されたメモリアルホールは資料館の地下一階にあり、無料で入場できる。期間中の来場者はのべ2300人となった。
 上映会は被爆70年を機に、平成27年8月の4年前に始まった。放送された番組を、放送以外に利用するためには、番組に登場する人物など、番組に関係する個々の権利者にあらためて許諾を求める、権利処理作業が必要になる。この役割は、放送法に基づいた放送番組のアーカイブ施設である公益財団法人放送番組センターが担った。
 放送番組センターは、横浜にある放送ライブラリーの施設で、NHKや民放各社より放送番組を収集、保管し、一般に無料で公開する事業を行っている。現在、受賞番組を中心に、2万本を超えるテレビ・ラジオ番組を公開している。以前は、横浜の放送ライブラリー内に事業が限定されていたが、平成24年の公益財団法人への移行を機に、横浜以外の施設でも番組が視聴できるようにと、横浜のライブラリーからネット回線で各地の公共施設に番組を送信する、あらたな事業を進めていた。
 放送ライブラリーにある原爆に関連するドキュメンタリーやドラマの番組は、200本以上にのぼる。合同上映会に必要な番組を横浜から広島の上映会場に送信できるように、個々の権利者から、再度、許諾を得る作業が行われた。
 1回目の合同上映会は、NHK広島放送局のハイビジョンシアターが会場となった。映画監督の大林宣彦氏の講演で幕を開け、10日間にわたり25本の番組を上映した。来場者はのべ800人にとどまったが、番組を見た人たちからは、「もっと早く見ていたら、原爆への考えが変わっていた。」「過去の番組がこんなにもすばらしいとは、思わなかった。」「今後も続けてほしい。」といった反響が寄せられた。関係者全員が、番組の持つ変わらぬ力と視聴者の思いを再認識させられた。
 この動きは、ただちに、同じ被爆地の長崎にも波及した。広島での上映会の翌年に、NHK長崎と長崎の民放4局(長崎放送・テレビ長崎・長崎文化放送・長崎国際テレビ)による、合同上映会「テレビが伝えた被爆の記憶fromナガサキ」が始まった。3回目の今年は、10番組が上映され、上映会場の長崎原爆資料館のホールに、3日間でのべ600人を超える人たちが来場した。
 NHKと民放各局からは、毎年、夥しい数の番組が放送されている。しかし、それらの番組に視聴者が再び触れることができる機会は、まだまだ少ない。もう一度見たいとなれば、あらかじめ録画しておくか、人気番組が中心の市販のDVDを購入するか、放送各社が運営する番組のネット配信で、あるいは放送ライブラリーに来て、探すしかない。原爆に関連した番組ともなれば、再放送でもなければ、なかなか見る機会はないというのが実態だ。それだけに、被爆地である広島と長崎で、NHK、民放各社が組織の垣根を越えて、過去の放送番組を合同で上映し、平和のメッセージを発信していくことは、大きな意義があるだろう。
 放送番組センターでは、2011年3月の東日本大震災に関連する番組の本数も、すでに100本以上を数えている。震災から来年で8年になる。仙台のNHKと民放各社の間では、広島、長崎に倣って、これまで放送してきた震災関連番組の合同上映会を開催しようという動きが始まった。放送界が共同して過去の番組を活用していこうという取り組みは、さらに広がっていきそうだ。
松舘晃(公益財団法人放送番組センター常務理事) 

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