「オウム大量死刑」についていろいろ考えてみた

安倍首相と上川法相は執行前夜、宴会に出席していた
 最初は「ついにやったな」と思ったが、その人数の多さを知って驚き、その後に背筋が寒くなってきた。「オウム大量死刑」執行の感想である。
 7月6日午前、オウム真理教の代表だった松本智津夫・元死刑囚(麻原彰晃、執行時63歳)ら7人の死刑が、全国4カ所の拘置所で執行された。20日後の26日には残り6人の死刑も行われ、結局13人の全死刑囚の死刑が実行された。
 7人という一斉執行は、1911(明治44)年に社会主義者の幸徳秋水ら12人が処刑された大逆事件に次ぐもので、13人はそれを超える。
 一連のオウム事件では坂本堤弁護士一家殺害事件、地下鉄サリン事件などで29人もの命が奪われ、6500人以上が負傷した。決して許されるべきものではないし、死刑という司法判断は当然だと思う。
 だが、国が国民の命を強制的に奪うという死刑は、最強の国家権力の行使以外の何ものでもない。それを合法的だとはいえ、安倍政権は何のためらいもなく、まとめて執行した。ジャーナリストとして強く引っかかるものがある。安倍政権に対し、違和感や冷徹さ、そして恐ろしさをも感じる。
 上川陽子法相は執行前日の5日夜、東京・赤坂の衆院議員宿舎で開かれた自民党国会議員の懇親会「赤坂自民亭」に出席していた。安倍晋三首相も顔を出した。
 7人の命を葬ることにどう感じながら杯を口にしたのだろうか。死刑には厳粛さがともなう。2人の心情が理解し難い。
 宴会のあったこの夜は、西日本豪雨の前兆があったときでもある。ツイッターに宴会の集合写真が投稿されると、「ずいぶん呑気ですね」と批判の声が次々と挙がった。

公権力行使だからこそ、情報公開はきちんとしたい
 法務省は長年、死刑執行を発表してこなかった。多くは国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルの調査で分かった。それが20年前に執行の事実と人数を公表するようになり、2007年12月からは執行後に氏名や生年月日なども発表し始めた。
 今回のオウム大量死刑について上川法相は6日午後0時45分から記者会見したが、対象者の選定理由などには「個々の執行の判断にかかわることはお答えを差し控える」と繰り返した。結局、法務省は詳しい内容の公表を避けた。
 死刑が公権力の行使である以上、その情報の公開は国民が十分納得できる形で実施してほしい。
 今年1月にオウム事件の全裁判が終わり、3カ月ほど前から上川法相と法務省幹部らが死刑執行について本格的に検討を始めたという。
 新聞各紙の報道を総合すると、検討会では天皇陛下の退位が2019年4月末に迫るなか「平成を象徴する事件は平成が終わる前に決着を付けるべきだ」との意見が多く出た。今年9月には自民党総裁選が予定され、「新たな内閣が発足して法務大臣が変わると、年内の執行は無理になる」とも指摘された。2年後の東京五輪開催についても「万全なテロ対策が必要」との意見が出た。執行する対象人数については「共犯者は同時に執行するのが慣例だが、死刑が確定している13人を同時に執行するのは現実的ではない」とされた。
 法務省は今年3月、東京拘置所にいた13人の全死刑囚の一部を他の拘置所に分散。上川法相は7月3日、7人の死刑執行命令書に署名した。オウムの大量死刑執行に向けて着実に準備され、内々に処理していったことが分かる。

産経社説は安倍政権の思考形態と似ていないか
 死刑の執行前、上川法相は安倍首相に報告していたはずだ。それに安倍首相はどう答えたのか。
 4年前、死刑制度について内閣府が実施した調査では「死刑もやむを得ない」が80・3%と多く、「廃止すべきだ」は9・7%とごくわずかだった。安倍首相はこの調査結果に加え、平成で最も凶悪なオウム事件の特異性を考え合わせ、「国民は納得し、支持率も上がる」と期待して了解したのかもしれない。もしそうだとすれば、「安倍1強」といわれる安倍政権のおごりだ。
 NHKは6日午前7時ごろに撮影したとして死刑に立ち会う係官らが東京拘置所に入る映像を流した。民放各社も法務省の発表前に死刑執行を次々と速報した。
 事前に情報が漏れていた可能性が強い。安倍政権が政権維持を強める目的で、マスメディアを通じて世論にアピールしようと漏らしたと考えるのは、偏った見方だろうか。
 ところで3年前までの10年間、産経新聞の論説委員のひとりとして論説委員室の会議で毎日議論を重ね、社説を執筆してきた。その立場に甘えて最後にひと言、勝手なことをいわせていただく。
 7月7日付の産経社説「主張」は冒頭で「わが国が、死刑制度を有する法治国家である以上、確定死刑囚の刑を執行するのは当然の責務である。法の下の平等を守り、社会の秩序を維持するためにも、これをためらうべきではない」と主張し、主見出しでも「執行は法治国家の責務だ」と強調している。
 確かにオウム死刑囚に対する死刑執行に妨げとなるような法的要因は何もないが、産経社説の主張には幅や奥行きが感じられない。思考形態の根底に「死刑執行は犯罪への抑止が働き、国益に繋がる」という考え方があるのだろう。だから法の正しさばかりが強調され、それが前面に出てしまう。法律ですべてが解決できるとはかぎらない。
 今回の産経社説は、安倍政権の思考形態とどこか似ている気がしてならない。
木村良一(ジャーナリスト)

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