韓国・KBSの730日  ~スポーツナショナリズムの伝え方~   

平昌オリンピックが2月25日に閉幕した。大会直前に、北朝鮮は韓国に対し、「ほほえみ外交」と評される協調的姿勢に転じた。キム・ジョンウン委員長に直結する高官が率いた代表団が開・閉会式に出席し、南北双方の選手が同時入場するなど、さながら南北融和の大会のようにも見えた。「南北統一旗」こそ、その象徴だ。とはいえ、北朝鮮は開会式前日に行った大規模な軍事パレードで、長距離弾道ミサイルを誇示し、核・ミサイル開発を継続する構えを示している。華やかな女性応援団に目を奪われ、南北融和をテコに国際社会の厳しい制裁を切り崩そうとする、北朝鮮の思惑を見逃すことはできない。北朝鮮の「ほほえみ外交」は、オリンピックを政治的に利用するプロパガンダであろう。平昌オリンピック後も、南北の対話が進み、北東アジアの平和が高まるのか。北朝鮮の出方を注視したい。
オリンピックは国威発揚であれ、国益追及であれ、政治に利用されてきた歴史を持つ。また、国旗を背負った競技は、とかくナショナリズムと結びつく。とりわけ、日本と韓国は歴史認識の「ずれ」から、スポーツとは相容れぬ「政治的主張」や「挑発・差別」などの問題を起こしてきた。筆者がKBS校閲委員として赴任する直前の2012年8月、ロンドンでのオリンピックサッカー3位決定戦もその一例だ。勝った韓国の選手が「独島(日本でいう竹島)はわが領土」と書かれたプラカードを掲げ、オリンピック憲章に反する政治的行為として処分を受けた。これに対し、韓国では、日本のユニフォームは「旭日旗」を図案化し、「軍国主義」を連想させるとの世論が高まり、「旭日旗」こそ「政治的主張」に当たると訴えた。1年後の7月28日には、ソウルでのサッカー東アジアカップ韓日決勝戦で、「政治的主張」が再び議論の的となった。試合中、日本側のサポーターが一時旭日旗を掲げ、韓国側は「歴史を忘れた民族に未来はない」と書かれた巨大な横断幕や初代韓国統監、伊藤博文を暗殺した安重根(アン・ジュングン)の肖像画を掲げたからだった。
日韓双方のメディアは、東アジアカップ韓日戦の問題をどう伝えたのであろうか。校閲委員として勤務していたKBS日本語放送は、翌29日、「東アジアカップ韓日戦、応援で’歴史問題’」との見出しで事実関係を伝えている。また、日本の下村元文科相が「その国の民度が問われる」と発言したことについて、韓国外交部が「極めて遺憾だ」とする論評を発表したことなど、関連ニュースを立て続けに発信した。中央日報は30日、「サッカー試合の応援で政治的な表現をどこまで許容するかをめぐり論争が起きている」とし、「旭日旗は政治的な含意が明白な旗」と伝えた。一方、日本のメディアは、NHKが29日朝のニュースで、韓国側の対応は「政治的主張を禁じるFIFA=国際サッカー連盟の規定に違反する可能性がある」と伝えている。読売新聞は「主催側が政治色の強い掲示物を黙認した」と報じたほか、「韓国の挑発」と表現する一部スポーツ紙もあった。日韓双方の報道姿勢は、相手を一方的に批判するものが目立ち、国内に向けた「世論迎合」の誹りも免れまい。
問題の論点は大別して2つあった。一つは、旭日旗や歴史認識を示す横断幕を掲げることが政治的主張なのかという点。もう一つは、大会やスポーツに関する規則に照らし、メディアが双方の立場を客観的に報道したのかという点だ。筆者はこうした論点について、たまたま司会を担当することとなった、8月9日付けKBS日本語放送のラジオ番組「金曜座談会」で取り上げることとなった。番組は「サッカー韓日戦、何を学ぶ」と題し、あいさつ、構成、質問項目、まとめなど台本すべてを自ら手掛けた。ゲストは韓国の日刊紙論説委員と日本の新聞社ソウル支局長の2人だった。番組では、韓国側、日本側から見た問題点を踏まえ、韓国にとっての旭日旗、日本にとって安重根の意味などを問い、何を学ぶべきかの提言も含めて、32分の座談会となった。論説委員は、旭日旗は日本で単なる旗でも、韓国では軍国主義の象徴であると説き、政治的主張となりうることに留意すべきと指摘する。また、支局長は韓国の一部メディアが「’スポーツ民族主義’はもうやめよう」(ハンギョレ)と論じたことを紹介し、不都合な真実をも報道することの重要性を強調し、番組のメッセージともすることもできたと自負している。
2017年4月25日、韓国で行われたサッカーアジアチャンピオンリーグ(ACL)の川崎フロンターレと水原戦で、川崎のサポーターの掲げた旭日旗がまた問題となった。アジアサッカー連盟(AFC)は旭日旗を掲げたことは規約上の「挑発的・差別的行為」にあたるとして川崎に処分を下し、上訴も棄却した。これにより、旭日旗は、海上自衛艦旗などとして国際的に認められていても、サッカーの応援では政治的挑発行為となる。
韓国では旭日旗を「戦犯旗」と呼ぶ。歴史認識に根差す韓国世論なのであろう。
羽太 宣博(元NHK記者)

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