“安倍政権サポーター宣言”をしてはどうか ~読売新聞への提案~

 先月(6月)23日。東京・内幸町 日本記者クラブの一番広い記者会見場。新聞・TVのカメラが最後列にずらっと並び、記者席は満杯、壁際も”立ち見”の記者たちで埋めつくされていた。
 定刻の午後4時45分きっちりに濃紺のスーツ上下、地味なネクタイ姿の前川喜平文科省前次官が入場、会見席に就いた。カメラ取材が終わると、司会者に促されて静かに話し出した。
 「岩盤(硬くて崩せない)規制に穴を開けてゆくという事に異存はない。しかし、今回の国家戦略特区の事業認定は、他の事業者の競争参入を認めない等、初めから加計学園ありきだった」と語り、これまでに文科省から出たと思われる、そうした事をうかがわせる文書はほぼ全て実在すると経緯を含めて、改めて詳しく述べた。
 そして、前川氏は、これらの説明が終わると、顔を上げて記者席に向き直り「メディアと権力。今回はその背後に何があったのか」と次のように話し始めた。
 「実は、(今年)5月20日,読売新聞から、『現役時代、出会い系バーに出入りしていたのではないか』という取材を受けた。翌21日,コメントが欲しいと言われたが応じなかった」「又、同じ21日,和泉洋人首相補佐官(国家戦略特区担当)に『会うつもりはないか』と後輩から問い合わせがあったが『考えておく』とだけ答えておいた。まさか、書くとは思っていなかった」
 だが、しかし、読売新聞は、翌日、取材から3日後(22日)の朝刊に「前川前次官出会い系バー通い」「文科省在職中、平日夜」と書く。出会い系バーは売春や援助交際の場になっていると”解説”もつく。
 読売報道から3日後、25日に前川氏は前次官として初めて記者会見に臨み、加計学園問題で”総理のご意向”があった等とする文書が存在すると証言した。しかし、菅官房長官は、記者会見で「出会い系バーに出入りするような人の話しは信用できない」と、読売報道を根拠に前川発言を一蹴する。結局、文書問題は松野文科相がその存在を認めて決着する。
 読売報道について、前川氏は今回(2回目 6月23日)の記者会見で「首相官邸と連動している」指摘する。具体的に、前川氏は、次官在任中の昨秋、首相官邸に呼ばれ杉田和博官房副長官(警察庁出身)から出会い系バーについて質問されたことを挙げ、今回、杉田氏がその件を読売新聞に伝えたのではないかとする。又、首相補佐官との面会を前川氏に勧める動き(5月21日)は、補佐官が読売記事を止める可能性を前川氏に示唆したのではないかと推定している。
 読売新聞と安倍政権との連動は決して珍しくないが、実は、最近にもあった。(今年)5月3日の憲法記念日。読売新聞は一面全てを使って安倍首相の”新”改憲案を伝えた。自民党の憲法問題担当者にさえ寝耳に水の”新”提案だった。5月8日、衆議院予算委員会で本音を聞かれた安倍首相は「(自民党総裁としての)考え方は、相当詳しく読売新聞に書いてありますから、是非それを熟読していただいてもいいんだろう」と答弁したものだ。
 さて、その読売新聞だが、先月(6月)3日の朝刊に社会部長名で「次官時代の不適切な行動」という見出しの一文を掲載した。先ず、記事(5月22日付)が首相官邸からのリークではないかという批判を気にしたのか、「独自の取材で」前川氏の行動を「つかみ」「裏付け取材を行なった」とした上で、「一般読者の感覚に照らしても、疑念を生じさせる不適切な行為である」と断じ、今回の件は「報道すべき公共の関心事」と書いた。そして、加計学園とは「全く別の問題である」とも主張した。
 前川氏と出会い系バーについて、例えば、前川氏が女性を援助交際に誘ったというような”怪しげ”な話しは、でてきていない。寧ろ、前川氏が夜間中学に出かけていたと伝えられるなど霞が関の現役官僚には珍しく、個人的な実地調査を頻繁にしていたようだ。読売新聞の「独自の取材」「裏付け取材」とは何だったのか?
 又、奇妙な事に、”出会い系バー”の報道が前川氏の最初の記者会見の3日前だったというタイミングについて、読売新聞は加計学園問題とは無関係と主張する。では、偶然だったのだろうか?腑に落ちない。
 読売新聞と安倍政権との連動は、多くの実例が示すように、今やジャーナリズムの世界では”常識”となりつつある。この際、社会部長名の一文のような言い訳けめいた説明は止めにして、読売新聞は”安倍政権サポーター”という”宣言”をしてしまった方が読者にも判りやすいのではないないか。
陸井 叡(叡Office)

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