ミニゼミリポート 新聞は誰が読まなくなったのか?

 2016年3月8日、2016年度第5回綱町三田会ミニゼミが慶應義塾大学三田キャンパスで開かれた。今回は「新聞の読者層調査・新聞は誰が読まなくなっているのか?」というテーマの下、研究所OBのジャーナリストと研究所担当教授、そして現役学生が議論を交わした。デジタルニュースへの移行により新聞離れが進んでいると言われている中で、日本の民主主義を支える上で重要な役割を果たす新聞のこの先の在り方について問うということもあり、いつにも増して活発な議論が繰り広げられた。
 議論は、ジャーナリスト側がABC調査による2016年1月と2017年1月の新聞発刊部数の比較データを提示する形で始まった。ABC調査によるデータは、実際の発刊部数よりも3割ほど多いとジャーナリストの間では認識されているそうだが、このデータによると、全国紙5紙はわずか1年間で合計613,095部も部数が減少している。これは、地方紙1紙がたったの1年間で消えてしまうことに値する。実際の数値を目の当たりにすることで改めて、新聞紙離れが想像をはるかに超える速度で進行しているということを我々は実感したのであった。
 続いて学生側が事前に作成したレポートの発表があった。これらは、NHK放送文化研究所による年代別新聞購読率の推移のデータ、日本新聞協会による新聞閲読者と非閲読者の生活スタイル比較データ、宮崎正弘『朝日新聞がなくなる日』(ワック、2009)、藤井路子・且英太郎・渡辺邦博「新聞購読に関する意識調査」(奈良産業大学編『奈良産業大学紀要第27集』奈良産業大学、2011年、119頁)を参考に作成した。若者の新聞離れという言葉を最近よく耳にするが、調査データを見る限りでは、10代男性の新聞購読者数には約20年前との大きな変化は伺えず、発刊部数減少には30代~50代の購読者数減少が大きく影響しているということがわかった。そして、新聞閲読者の方が、非閲読者と比較すると圧倒的に政治・選挙への関心が高いことが実際の調査データにより明白になった。
 では、この新聞紙発刊部数・購読者数の減少を受けて、新聞社は今後どうあるべきか。ジャーナリスト・担当教授・学生共に自らの意見を発表しあい、熱い議論となった。この議論の中では「新聞は紙からデジタルに移行していくべき」という意見が多くみられた。最近では、新聞は家で時間をかけて読むものではなく、通勤時間帯にスマホで読む人が増加傾向にある。そう考えた場合、紙媒体からデジタルに移行するのは自然の流れである。また、新聞社側としても、デジタルに移行することで販売店の経費削減につながるため、全体的なコストダウンが見込めるのではないかという意見も出された。
 しかし、あるジャーナリストの「印刷媒体が無ければ、マスメディアは生まれなかった」という意見に私ははっとさせられた。紙媒体には、デジタルでは実現し得ない価値があるのだ。その一つが一覧性である。新聞紙は、一目見るだけでその日の情報というのを一度に確認することが可能であり、また、見出しのレイアウトでそれぞれのニュースの重要性を示すことが出来る。確かに、インターネット上でも新聞紙の閲覧が出来るが、それは紙媒体があるからこそ実現可能なものである。このように考えると、デジタル新聞への完全移行は容易に行われるべきではなく、例え小規模だとしても紙媒体としての価値は残すべきであるのだ。
 最近では、新聞紙と比較して、即座にかつコンパクトに情報を入手できるデジタルニュースを日常的に閲覧する傾向が一般的に高い。しかし、このような流れの中だからこそ見直されるべき新聞紙の価値というものを議論出来た点が、今回のミニゼミの大きな収穫だったと感じている。また、今年度のミニゼミの中で最も活発に、ジャーナリスト・教授・学生という異なる立場からの意見交換が出来たという点でも非常に有意義な時間だった。来年度のミニゼミは、テーマは協議中であるが、今年度よりも学生による実践的な調査の試みが予定されており、より活発な議論の出来るものにしていきたい。2017年度の第1回ミニゼミは、5月17日を予定している。
佐々木 美波(慶應義塾大学 法学部 政治学科 2年)

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